Reactのexperimental_useMutableSourceを徹底解説。現代のReactアプリケーションにおけるミュータブルなデータ管理、変更検出メカニズム、パフォーマンスの考慮事項を探ります。
React experimental_useMutableSourceの変更検出:ミュータブルデータの習得
宣言的なアプローチと効率的なレンダリングで知られるReactは、通常、イミュータブル(不変)なデータ管理を推奨します。しかし、特定のシナリオではミュータブル(可変)なデータを扱う必要があります。Reactのexperimental_useMutableSourceフックは、実験的なConcurrent Mode APIの一部であり、ミュータブルなデータソースをReactコンポーネントに統合するメカニズムを提供し、きめ細かな変更検出と最適化を可能にします。この記事では、experimental_useMutableSourceの微妙な違い、利点、欠点、そして実践的な例を探ります。
Reactにおけるミュータブルデータの理解
experimental_useMutableSourceに深入りする前に、なぜReactにおいてミュータブルなデータが課題となりうるのかを理解することが重要です。Reactのレンダリング最適化は、コンポーネントが再レンダリングされる必要があるかどうかを判断するために、以前の状態と現在の状態の比較に大きく依存しています。データが直接変更されると、Reactはこれらの変更を検出できず、表示されるUIと実際のデータとの間に不整合が生じる可能性があります。
ミュータブルなデータが発生する一般的なシナリオ:
- 外部ライブラリとの統合: 複雑なデータ構造やリアルタイム更新を扱う一部のライブラリ(例:特定のチャートライブラリ、ゲームエンジン)は、内部的にデータをミュータブルに管理することがあります。
- パフォーマンス最適化: パフォーマンスが重要な特定のセクションでは、直接的な変更が完全に新しいイミュータブルなコピーを作成するよりもわずかな利点をもたらす場合がありますが、これには複雑さとバグの可能性という代償が伴います。
- レガシーコードベース: 古いコードベースからの移行には、既存のミュータブルなデータ構造を扱うことが含まれる場合があります。
一般的にはイミュータブルなデータが好まれますが、experimental_useMutableSourceを使用することで、開発者はReactの宣言的なモデルと、ミュータブルなデータソースを扱うという現実との間のギャップを埋めることができます。
experimental_useMutableSourceの紹介
experimental_useMutableSourceは、ミュータブルなデータソースを購読するために特別に設計されたReactフックです。これにより、Reactコンポーネントはミュータブルなデータの関連部分が変更された場合にのみ再レンダリングされ、不要な再レンダリングを回避し、パフォーマンスを向上させることができます。このフックはReactの実験的なConcurrent Mode機能の一部であり、そのAPIは変更される可能性があります。
フックのシグネチャ:
const value = experimental_useMutableSource(mutableSource, getSnapshot, subscribe);
パラメータ:
mutableSource: ミュータブルなデータソースを表すオブジェクトです。このオブジェクトは、データの現在値にアクセスし、変更を購読する方法を提供する必要があります。getSnapshot:mutableSourceを入力として受け取り、関連データのスナップショットを返す関数です。このスナップショットは、再レンダリングが必要かどうかを判断するために、以前の値と現在の値を比較するために使用されます。安定したスナップショットを作成することが重要です。subscribe:mutableSourceとコールバック関数を入力として受け取る関数です。この関数は、コールバックをミュータブルなデータソースの変更に購読する必要があります。データが変更されると、コールバックが呼び出され、再レンダリングがトリガーされます。
戻り値:
このフックは、getSnapshot関数によって返されるデータの現在のスナップショットを返します。
experimental_useMutableSourceの仕組み
experimental_useMutableSourceは、提供されたgetSnapshot関数とsubscribe関数を使用して、ミュータブルなデータソースへの変更を追跡することで機能します。以下にステップバイステップで解説します:
- 初期レンダリング: コンポーネントが最初にレンダリングされるとき、
experimental_useMutableSourceはgetSnapshot関数を呼び出してデータの初期スナップショットを取得します。 - 購読: 次に、フックは
subscribe関数を使用して、ミュータブルなデータが変更されるたびに呼び出されるコールバックを登録します。 - 変更検出: データが変更されると、コールバックがトリガーされます。コールバック内で、Reactは再度
getSnapshotを呼び出して新しいスナップショットを取得します。 - 比較: Reactは新しいスナップショットと以前のスナップショットを比較します。スナップショットが異なる場合(
Object.isまたはカスタム比較関数を使用)、Reactはコンポーネントの再レンダリングをスケジュールします。 - 再レンダリング: 再レンダリング中に、
experimental_useMutableSourceは再度getSnapshotを呼び出して最新のデータを取得し、それをコンポーネントに返します。
実践的な例
いくつかの実践的な例を用いて、experimental_useMutableSourceの使用法を説明しましょう。
例1:ミュータブルなタイマーとの統合
タイムスタンプを更新するミュータブルなタイマーオブジェクトがあるとします。experimental_useMutableSourceを使用して、Reactコンポーネントに現在の時刻を効率的に表示できます。
// ミュータブルなタイマーの実装
class MutableTimer {
constructor() {
this._time = Date.now();
this._listeners = [];
this._intervalId = setInterval(() => {
this._time = Date.now();
this._listeners.forEach(listener => listener());
}, 1000);
}
get time() {
return this._time;
}
subscribe(listener) {
this._listeners.push(listener);
return () => {
this._listeners = this._listeners.filter(l => l !== listener);
};
}
}
const timer = new MutableTimer();
// Reactコンポーネント
import React, { experimental_useMutableSource as useMutableSource } from 'react';
const mutableSource = {
version: 0, //変更を追跡するためのバージョン
getSnapshot: () => timer.time,
subscribe: timer.subscribe.bind(timer),
};
function CurrentTime() {
const currentTime = useMutableSource(mutableSource, mutableSource.getSnapshot, mutableSource.subscribe);
return (
Current Time: {new Date(currentTime).toLocaleTimeString()}
);
}
export default CurrentTime;
この例では、MutableTimerは時刻をミュータブルに更新するクラスです。experimental_useMutableSourceはタイマーを購読し、CurrentTimeコンポーネントは時刻が変更された場合にのみ再レンダリングされます。getSnapshot関数は現在の時刻を返し、subscribe関数はリスナーをタイマーの変更イベントに登録します。mutableSourceのversionプロパティは、この最小限の例では使用されていませんが、データソース自体への更新(例:タイマーの間隔の変更)を示す複雑なシナリオで重要になります。
例2:ミュータブルなゲーム状態との統合
ゲームの状態(例:プレイヤーの位置、スコア)がミュータブルなオブジェクトに保存されているシンプルなゲームを考えてみましょう。experimental_useMutableSourceを使用して、ゲームのUIを効率的に更新できます。
// ミュータブルなゲーム状態
class GameState {
constructor() {
this.playerX = 0;
this.playerY = 0;
this.score = 0;
this._listeners = [];
}
movePlayer(x, y) {
this.playerX = x;
this.playerY = y;
this.notifyListeners();
}
increaseScore(amount) {
this.score += amount;
this.notifyListeners();
}
subscribe(listener) {
this._listeners.push(listener);
return () => {
this._listeners = this._listeners.filter(l => l !== listener);
};
}
notifyListeners() {
this._listeners.forEach(listener => listener());
}
}
const gameState = new GameState();
// Reactコンポーネント
import React, { experimental_useMutableSource as useMutableSource } from 'react';
const mutableSource = {
version: 0, //変更を追跡するためのバージョン
getSnapshot: () => ({
x: gameState.playerX,
y: gameState.playerY,
score: gameState.score,
}),
subscribe: gameState.subscribe.bind(gameState),
};
function GameUI() {
const { x, y, score } = useMutableSource(mutableSource, mutableSource.getSnapshot, mutableSource.subscribe);
return (
Player Position: ({x}, {y})
Score: {score}
);
}
export default GameUI;
この例では、GameStateはミュータブルなゲーム状態を保持するクラスです。GameUIコンポーネントはexperimental_useMutableSourceを使用してゲーム状態の変更を購読します。getSnapshot関数は、関連するゲーム状態のプロパティのスナップショットを返します。コンポーネントはプレイヤーの位置またはスコアが変更された場合にのみ再レンダリングされ、効率的な更新が保証されます。
例3:セレクター関数を使用したミュータブルデータ
時には、ミュータブルなデータの特定の部分の変更にのみ反応する必要がある場合があります。getSnapshot関数内でセレクター関数を使用して、コンポーネントに関連するデータのみを抽出できます。
// ミュータブルなデータ
const mutableData = {
name: "John Doe",
age: 30,
city: "New York",
country: "USA",
occupation: "Software Engineer",
_listeners: [],
subscribe(listener) {
this._listeners.push(listener);
return () => {
this._listeners = this._listeners.filter(l => l !== listener);
};
},
setName(newName) {
this.name = newName;
this._listeners.forEach(l => l());
},
setAge(newAge) {
this.age = newAge;
this._listeners.forEach(l => l());
}
};
// Reactコンポーネント
import React, { experimental_useMutableSource as useMutableSource } from 'react';
const mutableSource = {
version: 0, //変更を追跡するためのバージョン
getSnapshot: () => mutableData.age,
subscribe: mutableData.subscribe.bind(mutableData),
};
function AgeDisplay() {
const age = useMutableSource(mutableSource, mutableSource.getSnapshot, mutableSource.subscribe);
return (
Age: {age}
);
}
export default AgeDisplay;
この場合、AgeDisplayコンポーネントはmutableDataオブジェクトのageプロパティが変更されたときにのみ再レンダリングされます。getSnapshot関数はageプロパティを具体的に抽出し、きめ細かな変更検出を可能にします。
experimental_useMutableSourceの利点
- きめ細かな変更検出: ミュータブルなデータの関連部分が変更された場合にのみ再レンダリングするため、パフォーマンスが向上します。
- ミュータブルなデータソースとの統合: Reactコンポーネントが、ミュータブルなデータを使用するライブラリやコードベースとシームレスに統合できます。
- 最適化された更新: 不要な再レンダリングを削減し、より効率的で応答性の高いUIを実現します。
欠点と考慮事項
- 複雑さ: ミュータブルなデータと
experimental_useMutableSourceを扱うことは、コードの複雑さを増します。データの一貫性と同期を慎重に考慮する必要があります。 - 実験的なAPI:
experimental_useMutableSourceはReactの実験的なConcurrent Mode機能の一部であり、APIは将来のリリースで変更される可能性があります。 - バグの可能性: ミュータブルなデータは、慎重に扱わないと微妙なバグを引き起こす可能性があります。変更が正しく追跡され、UIが一貫して更新されることを確認することが重要です。
- パフォーマンスのトレードオフ:
experimental_useMutableSourceは特定のシナリオでパフォーマンスを向上させることができますが、スナップショット作成と比較プロセスによるオーバーヘッドも発生します。それが純粋なパフォーマンス上の利点をもたらすことを確認するために、アプリケーションをベンチマークすることが重要です。 - スナップショットの安定性:
getSnapshot関数は安定したスナップショットを返さなければなりません。データが実際に変更されていない限り、getSnapshotの呼び出しごとに新しいオブジェクトや配列を作成することは避けてください。これは、スナップショットをメモ化するか、getSnapshot関数自体の中で関連するプロパティを比較することで実現できます。
experimental_useMutableSourceを使用するためのベストプラクティス
- ミュータブルなデータを最小限に抑える: 可能な限り、イミュータブルなデータ構造を優先してください。
experimental_useMutableSourceは、既存のミュータブルなデータソースとの統合や特定のパフォーマンス最適化のために必要な場合にのみ使用してください。 - 安定したスナップショットを作成する:
getSnapshot関数が安定したスナップショットを返すようにしてください。データが実際に変更されていない限り、呼び出しごとに新しいオブジェクトや配列を作成することは避けてください。メモ化技術や比較関数を使用して、スナップショットの作成を最適化してください。 - コードを徹底的にテストする: ミュータブルなデータは微妙なバグを引き起こす可能性があります。変更が正しく追跡され、UIが一貫して更新されることを確認するために、コードを徹底的にテストしてください。
- コードを文書化する:
experimental_useMutableSourceの使用法と、ミュータブルなデータソースに関する前提条件を明確に文書化してください。これにより、他の開発者がコードを理解し、維持するのに役立ちます。 - 代替案を検討する:
experimental_useMutableSourceを使用する前に、状態管理ライブラリ(例:Redux、Zustand)の使用や、イミュータブルなデータ構造を使用するようにコードをリファクタリングするなど、代替アプローチを検討してください。 - バージョニングを使用する:
mutableSourceオブジェクト内にversionプロパティを含めます。データソースの構造自体が変更された場合(例:プロパティの追加または削除)にこのプロパティを更新します。これにより、experimental_useMutableSourceは、単なるデータの値だけでなく、スナップショット戦略を完全に再評価する必要がある時期を知ることができます。データソースの動作方法を根本的に変更するたびにバージョンをインクリメントしてください。
サードパーティライブラリとの統合
experimental_useMutableSourceは、データをミュータブルに管理するサードパーティライブラリとReactコンポーネントを統合するのに特に便利です。以下に一般的なアプローチを示します:
- ミュータブルなデータソースを特定する: ライブラリのAPIのどの部分が、Reactコンポーネントでアクセスする必要のあるミュータブルなデータを公開しているかを判断します。
- ミュータブルなソースオブジェクトを作成する: ミュータブルなデータソースをカプセル化し、
getSnapshot関数とsubscribe関数を提供するJavaScriptオブジェクトを作成します。 - getSnapshot関数を実装する: ミュータブルなデータソースから関連データを抽出するための
getSnapshot関数を作成します。スナップショットが安定していることを確認してください。 - Subscribe関数を実装する: ライブラリのイベントシステムにリスナーを登録するための
subscribe関数を作成します。リスナーは、ミュータブルなデータが変更されるたびに呼び出される必要があります。 - コンポーネントでexperimental_useMutableSourceを使用する:
experimental_useMutableSourceを使用してミュータブルなデータソースを購読し、Reactコンポーネントでデータにアクセスします。
たとえば、チャートデータをミュータブルに更新するチャートライブラリを使用している場合、experimental_useMutableSourceを使用してチャートのデータ変更を購読し、それに応じてチャートコンポーネントを更新できます。
Concurrent Modeに関する考慮事項
experimental_useMutableSourceは、ReactのConcurrent Mode機能と連携するように設計されています。Concurrent Modeにより、Reactはレンダリングを中断、一時停止、再開することができ、アプリケーションの応答性とパフォーマンスが向上します。Concurrent Modeでexperimental_useMutableSourceを使用する場合、以下の考慮事項に注意することが重要です:
- テアリング(Tearing): テアリングは、レンダリングプロセスの中断により、ReactがUIの一部しか更新しない場合に発生します。テアリングを避けるために、
getSnapshot関数がデータの一貫したスナップショットを返すようにしてください。 - Suspense: Suspenseを使用すると、特定のデータが利用可能になるまでコンポーネントのレンダリングを中断できます。
experimental_useMutableSourceをSuspenseと共に使用する場合、コンポーネントがレンダリングを試みる前にミュータブルなデータソースが利用可能であることを確認してください。 - トランジション(Transitions): トランジションを使用すると、アプリケーション内の異なる状態間でスムーズに移行できます。
experimental_useMutableSourceをトランジションと共に使用する場合、トランジション中にミュータブルなデータソースが正しく更新されることを確認してください。
experimental_useMutableSourceの代替案
experimental_useMutableSourceはミュータブルなデータソースと統合するためのメカニズムを提供しますが、常に最善の解決策とは限りません。以下の代替案を検討してください:
- イミュータブルなデータ構造: 可能であれば、コードをリファクタリングしてイミュータブルなデータ構造を使用してください。イミュータブルなデータ構造は、変更の追跡を容易にし、意図しない変更を防ぎます。
- 状態管理ライブラリ: Redux、Zustand、Recoilなどの状態管理ライブラリを使用して、アプリケーションの状態を管理します。これらのライブラリは、データのための一元的なストアを提供し、イミュータビリティを強制します。
- Context API: ReactのContext APIを使用すると、プロップスのバケツリレーなしでコンポーネント間でデータを共有できます。Context API自体はイミュータビリティを強制しませんが、イミュータブルなデータ構造や状態管理ライブラリと組み合わせて使用できます。
- useSyncExternalStore: このフックは、Concurrent Modeやサーバーコンポーネントと互換性のある方法で外部データソースを購読することを可能にします。特に*ミュータブル*なデータ用に設計されているわけではありませんが、外部ストアへの更新を予測可能な方法で管理できる場合は、適切な代替案となる可能性があります。
結論
experimental_useMutableSourceは、Reactコンポーネントをミュータブルなデータソースと統合するための強力なツールです。きめ細かな変更検出と最適化された更新を可能にし、アプリケーションのパフォーマンスを向上させます。しかし、それはまた複雑さを増し、データの一貫性と同期について慎重な考慮を必要とします。
experimental_useMutableSourceを使用する前に、イミュータブルなデータ構造や状態管理ライブラリの使用など、代替アプローチを検討してください。experimental_useMutableSourceを使用することを選択した場合は、コードが堅牢で保守可能であることを保証するために、この記事で概説したベストプラクティスに従ってください。
experimental_useMutableSourceはReactの実験的なConcurrent Mode機能の一部であるため、そのAPIは変更される可能性があります。最新のReactドキュメントを常に確認し、必要に応じてコードを適応させる準備をしてください。最善のアプローチは、可能な限りイミュータビリティを目指し、統合やパフォーマンス上の理由で厳密に必要な場合にのみexperimental_useMutableSourceのようなツールを使用してミュータブルなデータ管理に頼ることです。